「食料供給困難事態対策法」の裏の目的とは?国がハイパーインフレに備え始めた

 政府は、表向きには国際情勢等や異常気象の影響による対策としつつも、実際にはハイパーインフレや通貨価値下落を想定した「統制の準備」として本法を構成した可能性が高いとみています。

 

「食料供給困難事態対策法」が整備され、国による食料の安定供給体制の構築が進められています。この法律の背景には、災害や感染症だけでなく、国際的な価格高騰や経済危機といった複合的なリスクが存在しています。中でも注目すべきは、ハイパーインフレのような事態も想定されている点です。

 

法律が想定する“困難事態”とは?

食料供給困難事態対策法の第2条では、以下のような事態が「食料供給困難事態」と定義されています。

・自然災害や感染症などにより、食料の供給が著しく不足する事態

・国際的な食料需給の逼迫や価格高騰などにより、食料の価格が著しく上昇する事態

 

 この第2条第2項「食料の価格が著しく高騰する事態」は、まさにハイパーインフレーションを想定したものであると読み解けます。国や政府が、経済的要因による食料価格の急騰リスクを十分に認識していることを明確に示す条文です。

 

インフレ率と通貨供給量の関係

 現在の日本では、表面上のインフレ率は2〜3%台で推移していますが、コロナ以降の量的緩和政策により、通貨供給量(マネーストック)は異常な水準まで膨れ上がっています。具体的には、2025年1月時点でのマネーストックM3の平均残高は前年比0.8%増の1,610兆4,000億円となり、過去最高水準を更新しています。

 経済成長が伴わないまま通貨が過剰に供給される状況は、将来的にインフレが爆発的に加速する引き金になり得ます。

 

歴史が語るハイパーインフレの共通点

財産税はどう徴収されたのか? そして今後の可能性は?

 1946年に導入された財産税は、単に銀行口座や土地建物だけでなく、登記や登録のない美術品・宝石・貴金属・高級家具などにも課税されました。

 これらの資産は通常、政府による把握が難しいため、当時は以下のような手段で課税が行われました:

 

自己申告制:国民は自らの所有財産を申告する義務が課され、正直に報告することが前提とされていました。

 

家庭訪問調査:税務署職員が家庭を訪問し、資産の実地調査を行うケースもありました。

 

告発制度:周囲の住民からの密告制度が設けられ、「あの家には宝石がある」「隠している金がある」といった情報が課税のきっかけになることも。

 

 このような仕組みは、国民の間に強い不安と警戒感を生み出し、“隠し財産の摘発”という社会的圧力が広がった背景にもなりました。

 

デジタル時代の今、登記のない資産にも課税は可能? そして個人はどう備えるべきか

 2025年現在、技術の進化と行政のデジタル化により、登記のない資産への課税・把握も現実味を帯びています。

マイナンバー制度と資産情報の統合:証券口座や保険、不動産、銀行預金などの情報はマイナンバーで紐付けが進み、個人の金融資産の可視化が進行中です。

 

AIによる異常取引の検出:大量購入や高額資産の売買は、AIによって「異常値」として検知されやすくなっており、監視が強化されています。

 

デジタル資産のトラッキング:暗号資産やNFTなども含め、税務当局は取引履歴の追跡に力を入れています。

 

不動産や美術品の保険・売買履歴の照会:保険加入歴やオンラインマーケットでの売買記録を通じて、実物資産の把握が進む可能性も。

 

 つまり、戦後とは違い、自己申告や訪問調査に頼らなくても、「見えなかった資産が見える時代」が到来しており、もし財産税が再導入されるような事態になれば、より精緻な徴収が行われる可能性があります。

 

 さらに、ネットバンクやATMなどを利用する中で、多くの人が実感しているように、「過去に取引した相手への着金が早い」「振込先候補が自動で提示される」などの仕組みからも、銀行口座の取引情報はAIによって監視・最適化されていることがわかります。

 

 このような状況を踏まえると、まだ完全にデジタル化されていない現金や預金を、実体のある登記されていない資産(美術品・貴金属・アンティーク等)に換えておくことは、今後の個人資産を守るための現実的かつ賢明な手段のひとつと言えるでしょう。もし財産税が再導入されるような事態になれば、より精緻な徴収が行われる可能性があります。

 

日本の過去に起こったハイパーインフレの実例:戦後の混乱期

 第二次世界大戦終戦直後の日本(1945〜1949年)は、まさにハイパーインフレの最中にありました。当時、軍需産業の崩壊、インフラの破壊、国債の大量発行により、通貨の信認が急落し、物価が急騰しました。

 

この時代、国民一人ひとりが深刻な影響を受けました。

 

給料が入っても、翌週には価値が目減りしている:現金の購買力がどんどん下がり、サラリーマンは給料日に急いで買い物に走る姿が見られました。

米や味噌などの基本的な食料が手に入らない:政府の配給だけでは到底足りず、闇市での取引に頼らざるを得ませんでした。

預金封鎖と新円切替による財産の蒸発:1946年の預金封鎖・新円切替で、庶民の銀行預金が凍結・減価し、多くの人が資産を失いました。

財産税の導入による富の強制的な再分配:同じく1946年、政府は財政再建とインフレ対策の一環として「財産税」を導入。家や土地、貯金、宝石など、あらゆる資産に課税され、多くの国民が実質的に私有財産を大きく失いました。

実物資産の価値が急騰:金、米、たばこ、着物など「形あるもの」が通貨よりも信用され、物々交換の手段として使われました。

預金封鎖と新円切替による財産の蒸発:1946年の預金封鎖・新円切替で、庶民の銀行預金が凍結・減価し、多くの人が資産を失いました。

 

 このような体験は、歴史として語られるだけでなく、私たちが今「自分ごと」として捉えるべきリアルな教訓です。

 

 過去にハイパーインフレが起きた国々(ドイツ・ジンバブエ・アルゼンチンなど)には、いくつかの共通点があります。

・戦争や政策失敗による国内生産の崩壊

・財政赤字の拡大と通貨乱発

・政府や通貨への信用喪失

 これらの条件が重なると、物価が急騰し、国民はモノや外貨、金などの“実物資産”に殺到します。

 

 また、こうしたハイパーインフレのリスクは日本に限らず、世界中で膨張する政府債務や通貨供給、地政学リスクの高まりにより、他国でも現実味を帯びています。

 

日本でも現実味を帯びてきたハイパーインフレ

政府がこの法律で実現しようとしていることと、国民にとっての影響

今後あり得る法改正・新たなリスクへの備えも必要

現在の「食料供給困難事態対策法」は、あくまでも食料供給に関する緊急対応に焦点を当てたものですが、今後の経済情勢やインフレの進行によって、以下のような新たな法整備や改正が検討される可能性があります。

  • 新たな資産課税の導入:財産税の復活や、暗号資産・NFT・電子マネーなど新しいデジタル資産への課税強化。

  • 備蓄税・保有税の検討:一定量以上の食料・燃料・現金・貴金属などを保有することに対して課税される可能性。

  • 個人間取引・ネット販売の制限法制化:流通統制の一環として、自由な個人取引が規制されるリスク。

  • 生活必需品の買い控え・買い占め禁止令:状況によっては、個人の購買行動そのものが法的に制限されることも。

こうした流れを踏まえると、「今のうちに何を守るべきか」「何を実物として持っておくべきか」を考え、先手を打った備えをすることが、自由と資産を守る鍵となります。

 

「食料供給困難事態対策法」は、政府がハイパーインフレや大規模な供給不足のような非常事態時に、迅速かつ強力に対応するための統制手段を事前に整備することを目的としています。

政府が可能となる主な対応内容:

  • 食料供給のルートや優先順位を国家レベルで統制できる

  • 農家や流通業者に対して、出荷量や配送先の調整・命令が可能

  • 価格高騰時に、価格の上限設定や配給制の導入ができる

  • 国家備蓄の戦略的な放出

  • 自治体を通じた国民への行動要請・指導

一方で、国民が受ける可能性のある影響(デメリット)

  • 食料や物資の自由な売買やネット販売が制限される可能性

  • 生産者や事業者の経済的自由が制約される

  • 市場原理によらない配給制の導入により、欲しい物を自由に手に入れることが困難になる恐れ

  • 自宅の備蓄や資産に対する把握・介入リスクの増加

 このように、法律は国家としての「秩序維持・安定供給」の手段であると同時に、私たちの自由な経済活動や財産の管理に一定の制約を加える“両刃の剣”であるという視点を持つことが重要です。

 日本は膨大な財政赤字、エネルギーや食料の輸入依存、急速な円安といった複数のリスクを抱えています。こうした中で、政府が「価格高騰」への対策を明記した法律を成立させたことは、ハイパーインフレのような事態をある程度想定している証拠とも言えるでしょう。

 

他国の取り組み:注目すべきロシアの事例

 ロシアでは、日本の食料供給困難事態対策法に近い存在として「食料安全保障ドクトリン」が存在し、国家戦略の中核に据えられています。2020年改訂の同ドクトリンでは、主要な農作物・畜産物・食料品について具体的な自給率目標が設定され、国内供給の確保と経済的自立が重視されています。

 例えば、穀物95%、肉類95%、野菜類90%、乳製品90%など、分野ごとに高い自給目標が掲げられています。ロシアはまた、近年の地政学的リスクや制裁を受けても、安定した食料供給体制を維持する政策を強化しており、こうした備えは非常時における国家の持久力を高めています。

 

個人でできる備え

 ハイパーインフレが現実となった場合、国家の制度だけに頼るのは危険です。私たち一人ひとりが、以下のような備えを意識することが重要です。

 

・ゴールドバック通貨を準備・導入し始めた国の通貨や金準備を増やしている国の通貨による資産防衛

・アンティークコインやモダンコインなど、歴史的価値や収集価値を持つ実物資産への分散

・食料や水、燃料などの備蓄(※最低でも2週間〜1ヶ月分の備えは必須。可能であれば3ヶ月分〜を目安に)

・物々交換も視野に入れた人とのつながりの確保

・自給的なライフスタイルへのシフト

 

終わりに

 2025年4月1日から施行される「食料供給困難事態対策法」は、単なる自然災害や輸入リスクへの備えにとどまらず、政府がハイパーインフレや通貨不安といった“経済的非常事態”も視野に入れて動いている証拠と言えるでしょう。

 この記事で見てきたように、過去の日本でもハイパーインフレは現実に起こり、預金封鎖・財産税・食料不足といった形で国民生活を直撃しました。そして現代では、マイナンバー制度やAIによる監視体制の整備により、個人資産の可視化と把握はかつてないほど進んでいます。

 こうした背景のもと、私たち一人ひとりが考えるべきは、「いかに国の制度に依存せず、未来の不確実性から身を守るか」です。現金や銀行預金を中心とした資産構成から一歩踏み出し、実物資産や登記のない資産へのシフト、そして食や人とのつながりを見直すことが、いざというときに“生き抜く力”となるはずです。

政府の動きを読み解き、過去の教訓を活かし、今できる備えを始めましょう。

 

↓ジンバブエで起こったハイパーインフレーションについて書いています。参考となりますので、こちらもぜひご一読頂ければと思います。

https://first-sovereign.jp/blogs/blog/hyperinflation-zimbabwe-realassets